腎癌の記憶
2011年4月28日(木)
2011年4月5日(火)、腎細胞癌のために右腎全摘出手術を受けました。
癌と分かったときからインターネットや書籍で腎癌の特徴や治療法に関する情報を集め、
さらに退院後も癌の原因究明や治療に対して現代医学はどのあたりまでたどり着いているのか引き続き調べました。
一般向けの読物から専門書までいろいろ調べた結果、これまで漠然と抱いていた癌に対するイメージを覆す、愕然となる事実が次々と現れました。
人類はまだ癌の正体や発生メカニズムも解明できていないし、治療方法も確立できていません。
我々は癌に対してまだまだ無力だったのです。
私の場合、癌は人間ドックがきっかけとなって見つかりました。
全く予期していなかったときにいきなり告知を受けたわけです。
ある日突然「あなたは癌ですので、これからこうこうこういう治療を行います」と言われても、専門家でない我々は「はぁ…」と言って医者の指示に従うしかありません。
しかし、医者も我々と同じ人間で完璧な存在ではありません。
いろんなレベルの人がいますし、中には不勉強な方もいます。
したがって、自分の命を預けるのですから、できるだけ優秀で信頼できる医者にかかりたいと考えるのが普通ではないでしょうか。
なぜそんな分かり切ったことを言うのかというと、手術後に改めて他人の闘病記なるブログを読んでみると、
えっ?と思えるようなことがそこかしこに書かれていたからです。
私も決して腎癌に詳しかったわけではありませんし、よく分からないまま医者に言われる通りにしてきました。
しかし、癌と分かってすぐに調べた情報と自分が受けている治療がちょっと違うなという感じがあり、
さらにいろいろ調べていくと自分の受けた治療の方が最新の研究結果に基づく理に適ったものだと分かってきました。
その上でもう一度他人の闘病記を読むと、「えっ、そんな治療はないだろう」ということがそこかしこに見られたのです。
癌の治療法が確立していないということが、このようなところに現れているのです。
私の場合は、幸運にも非常に優秀な医者にかかれたということになります。
一方、腎臓がんに限らず、一般に癌の治療成績は1970年代からほとんど向上していません。
にもかかわらず、世間では「癌はもはや不治の病ではない」と言われ、告知が当たり前のようになっています。
そこには計算のトリックと言葉のマジックがあります。
それらは後の章で説明しますが、癌を告知された患者は癌は治るものと思って、もしくは癌を治そうとして医者に全てを委ねます。
そしてそこには患者を勘違いさせる説明と同意 -- インフォームドコンセントが待ち受けています。
それは決して医者が患者を騙そうとしているのではなく、患者が勝手に勘違いしてしまうのです。
患者が勘違いする原因は2つあります。
1つは医者がこのくらいは当然患者も知っているだろうと難しい言葉を使ってしまうケースです。
この場合、医療ドラマなどで聞いたことがあるような単語が飛び交い、患者も分かったような顔でふんふんとうなずいてしまいますが、
あとでよくよく考えると内容が理解できていなかったということになります。
もう1つは医者が平易な説明を心掛けるあまり、言葉の定義があいまいなまま使われてしまうケースです。
例えば「この手術であなたの癌は治ります」と言われたとき、医者の「治る」というのにはいろいろな意味があります。
再発の可能性が極めて低いというケースもあるかもしれませんが、5年生存率が50%以上だから治ると言っているだけなのかもしれません。
ひょっとしたら、ただ単に病巣が取れる範囲にあるということだけなのかもしれません。
言葉の意味を懇切丁寧に説明してくれる医者は、まずいません。
しかし、治りますと言われた患者は、今回の手術さえ成功すれば今後一生癌がなくなると思ってしまいます。
告知自体が悪いことだとは思いませんが、告知を受けた患者はもっと賢くなる必要があります。
賢くならないと医者と会話できませんし、会話ができないと本当のインフォームドコンセントが成立しません。
療養中に立花隆さんの「がん 生と死の謎に挑む」(文芸春秋 発行)を読みました。
この本は2部構成になっており、第1部がNHKスペシャルで放映された同名の番組の裏話で、第2部が立花隆さんご自身の闘病記です。
第1部は技術的・学問的に非常に興味深い内容ですが、第2部はどうでもいい個人的な体験が散りばめられた少しがっかりさせられる中身になってしまっています。
「闘病記」となると立花さんほどの文才をお持ちの方でもこうなってしまうのかということを鑑みると、
私がこれから書こうとするものがたいへん低俗な下世話なものになるような気がしてなりません。
ですが、あえてこれを記そうと思ったのは、上に書いた2つの事柄 --
優秀な医者を捜し当てることがいかに重要かということと、その医者と会話をするための最低限の知識を伝える必要を感じたからです。
特に癌の中でも決して多くない腎癌にかかってしまった方に、少しでもこれからの治療を考える上での手助けとなれば幸いです。
インターネットは手軽に調べものができる、今や生活になくてはならないツールです。
しかし、そこには最先端の高度な情報からいい加減な与太話まで、対象も専門家から一般向けまで一緒くたに存在しています。
さらに古いページがそのまま残っていることが多々あり、時代遅れの内容になっているものも見受けられます。
我々は自分の知恵と知識を頼りに、それらの中から利用できるものを拾い出さないといけません。
信頼できるサイトから情報を得ることが大切です。
(2024年現在 リンク切れがないことは確認していますが、内容はそれぞれ変わっていますので、実際のページをご覧になって確認してください。)
2011年4月28日(木)