腎癌の記憶
2011年6月19日(日)
4月1日(金) 入院,おへその掃除,寝たままうがいをする練習
4月2日(土) 何もなし
4月3日(日) 何もなし
4月4日(月) (手術前日)
14:45 下剤(マグコロールP)服用
15:00 術前説明(インフォームド・コンセント)
18:45 麻酔科医面談
20:00 下剤(プルゼニド)服用
4月5日(火) (手術日)
06:25 浣腸
07:00 抗生剤(クラビット)服用
08:25 歩いて手術室へ
13:30 病室へ戻る
4月6日(水) ドレーン抜く,歩行練習,抗生剤(クラビット)服用開始(4日間)
4月7日(木) 胸部と腹部のレントゲン,バルーン抜く,点滴と硬膜外カテーテル抜く
4月8日(金) 何もなし
4月9日(土) 手術後初めてのシャワー,抗生剤(クラビット)服用おわり
4月10日(日) 何もなし
4月11日(月) 退院
いきなり難しい言葉を並べてしまいましたが、左欄の図(マウスを合わせると拡大します)を見ていただければ、それぞれ何のことか分かるかと思います。 入院前のオリエンテーションのときにもらった絵ですが、いまはここまで丁寧に説明してくれます。 昔(20年前)は何の事前説明もなく、手術室から戻ってきて気が付いたら身体からいっぱいチューブやコードが出ていてびっくりしました。
他のたいていの病院でも手術前日になるようですが、家族同伴で手術内容の説明を受けます。 インフォームド・コンセントの最大の山場です。 ポイントは以下の3点です。
I.は特に症状に変化が無ければ省かれます。(私のときも省略されました。) II.は医者に任すしかありませんので、患者は一方的に聞くだけです。 双方にとって最も重要なのはIII.で、手術後にトラブルが発生しないように医者も一生懸命説明しますし、患者も少しでも不安があれば納得するまで聞いてください。
そのためには...
これらはインフォームド・コンセントにあたっての患者側のマナーです。 健康保険組合連合会のホームページに「賢い患者の心得」が掲載されています。 一読されると良いでしょう。(残念ながら2021年現在無くなっています)
私が受けた術前説明で、担当医から強調されたリスクは以下の3項目でした。
@ 途中で開腹手術に切り換えることがある。(可能性は極めて低いが)
A 輸血が必要になることがある。(可能性は極めて低いが)
B 臓器損傷の可能性がある。(対象は、大腸・肝臓・十二指腸・下大静脈)
私が受けた手術は、腹腔鏡下右腎摘出術です。
腹腔鏡を入れるための孔を正面に2箇所、右わき腹に2箇所の計4箇所開けました。
孔をあけた後、二酸化炭素を入れてお腹を膨らませて、邪魔になる大腸・十二指腸をかき分けて腎臓に到達します。
腎動脈を剥離してクリップ、ここまで無事できれば手術は成功したようなものだと言われました。
クリップはヘモロック結紮(「けっさつ」と読みます)システム(左写真上マウスを重ねると拡大します)という器具を使って行います。
3個クリップを取り付け、2個と1個の間で切断して2個の側を体内に残します。
残したクリップは取り出せませんから、一生体内にクリップが残ったままになります。
クリップの材質はポリアセタールという、身近にあふれている工業用プラスチックです。
腎動脈と腎静脈、尿管の3本をクリップした後に切断して、最後にお腹を4〜7cm切り開いて腎臓を取り出します。
腎臓を取り出すときには癌細胞を撒き散らさないように、巾着状のバッグ(左写真下マウスを重ねると拡大します)に入れてから体外に取り出します。
あとは傷を縫って終わりです。
左腎の腹腔鏡下腎摘出術を発表している論文を見つけました。 ビデオ映像も付いていますので、興味のある方は見てみてください。 (F.Porpiglia et.al., Laparoscopic Radical Nephrectomy with Direct Access to the Renal Artery: Technical Advantages, European Urology Vol.49, pp.939-1152, 2006)
前章で「合併症とは医療行為に伴う好ましくない事態」であると述べました。 したがって、手術による傷も広義の合併症の一つになりますが、手術を受けることで必ず起きる普通の痛みや発熱は、病院が気を付けている合併症からは除かれます。 それでは何を気にかけているかを具体的に紹介します。
感染症
感染症は大きく2つに分けられます。
一つは術創が感染するもので、症状としては膿が溜まります。
もう1つは一般に院内感染と呼ばれるもので、手術後に体力が低下していることで発症します。
症状は病原体によってさまざまですが、高熱が続いたり下痢を起こしたりします。
縫合不全
身体の内部の縫合部から滲出物が漏れ出してきます。
手術ミスではなく、一定の確率でどうしても発生してしまうそうです。
腎癌の手術の場合では、腎臓の部分切除の痕から血や尿が漏れてくることがあります。
腸閉塞
消化器系には一切触れない手術でも、お腹を開けることで胃腸は一時的に麻痺して活動を停止するそうです。
手術後に再び胃腸が正常に動き出すまでには時間がかかるため、日にちをかけて徐々に普通食に戻していきます。
ところが、腸の動きがなかなか戻らないと腸の粘膜が萎縮し、いつまで経っても食べ物がスムーズに流れなくなります。
肺 炎
意外と知らない人が多いのですが、全身麻酔の間は自分の力で呼吸(「自発呼吸」といいます)できませんので、人工呼吸器が付けられています。
人工呼吸器が付けられている間は、肺に痰が溜まりますし、肺の一部に空気が流れない箇所ができたり(「無気肺」といいます)します。
これがもとで、肺炎を起こしてしまうことがあります。
エコノミークラス症候群
足を動かさないで長い時間じっとしていると、ふくらはぎや太ももの静脈の血流が滞って血栓ができます。
この血栓(血の塊)が肺に飛んで動脈を塞いでしまうと肺血栓塞栓症という重篤な症状に陥ります。
以上の合併症を防止するために、病院はあらゆるケアをしています。
手術後にふくらはぎにマッサージ用のエアマットを巻き付けるのは、エコノミークラス症候群予防のためです。
手術直後から寝たままうがいをさせるのは、痰を出しやすくするためと院内感染予防のためです。
手術後2日目にレントゲンを撮ったのは無気肺や腸閉塞の兆候が出ていないかチェックするためでしたし、手術翌日から歩け歩けと言われるのは、肺機能を取り戻すのと腸の動きをよくするためです。
痛みがある場合は、痛み止めを使ってでも歩かせられます。
20年前はこれらの合併症に対するケアは一切ありませんでした。
痛み止めはあまり使うと良くないので、痛みが無くなるまではじっと寝て我慢しろと言われました。
エコノミークラス症候群はそれ自体が知られていなかったかもしれません。
ずいぶん変わったものです。
もう1つ驚いたのが、手術後に術創の消毒が一度も無かったことです。 消毒が無いどころか医者が傷を確認することは一度もありませんでした。 看護師に2度ほど見せただけです。 埋没法で縫ってありましたので抜糸もありませんでしたし、シャワーを浴びた後も特に何もしなくていいということでした。 これには少しびっくりでした。
最後に手術後のお通じ(排便)について少し述べておきます。 腹腔鏡手術の場合、最後に腎臓を取り出すために腹直筋をやや大きく切りますので、手術後腹筋に全く力が入らなくなり下腹がポコっと出たような体型になります。 そして手術後数日間は便意はくるのですが、お腹に力が入らないので便がなかなか出ませんでした。 腸はゴロゴロ動いていましたので気長に待つしかないなと思っていましたが、結局お通じがあったのは手術後4日目でした。 私だけではなく他の何人かも同様で、一人はとうとうお通じが無いまま退院して行きました。
2011年6月19日(日)