腎癌の記憶
2011年6月10日(金)
癌が疑われて病院に行ったときから医者との会話が始まりますが、医者の言っている言葉を全て正しく理解できている患者はほとんどいないと思います。
なぜなら突然癌になった患者にとっては癌というのは異次元の世界であり、異次元の言葉でいきなり話しかけられても分かろうはずがないからです。
専門用語は聞けばいいのですが、この異次元世界では普通の日本語が違う意味で使われていることがあります。
私が患者として気付いた、国語で習わなかった異次元言葉を並べました。
これらを知るだけでも、医者との会話の質が上がると思います。
早期癌と偶発癌
早期癌とは病期分類ステージT期の癌のことを言います。
早期に見つかった癌のことではありません。
10年以上経過したものでもステージT期であれば早期癌です。
病期が進むにしたがって、早期癌→局所進行癌→遠隔進行癌となります。
局所進行癌と遠隔進行癌は、まとめて進行癌と称されます。
なお、癌の種類によってはステージU期までを早期癌としているものもあります。
偶発癌とは、癌の自覚症状が無いうちに検診で見つかったものです。
運悪く偶発的にできてしまった癌のことではありません。
偶発癌の多くは早期癌ですが、腎癌は自覚症状がない間に相当大きくなりますので、偶発癌であるが進行癌だったということも少なくありません。
再発と転移
普通、癌のあった臓器そのものを取った場合は再発はないと考えますよね。
なぜなら、再発しようにも元の臓器がないのですから。
ところが「再発」という言葉は「転移」も含めて使用されています。
ちょっとややこしいので、左欄の図で示します。
「局所再発」という言葉が、同じ場所に再び癌が発生することを言います。
合併症
入院するとこの言葉を頻繁に耳にします。
合併症の定義は「医療行為にともなって起こりうる好ましくない事態」です。
「好ましくない事態」ですから、手術による体表の傷から院内感染症のような重篤なものまで、何でもかんでも合併症です。
合併症については、次章「手術」でもう少し詳しく触れます。
根治と温存
「根治」というと「根こそぎ(根本から)治る」と思うのが普通の感覚でしょう。
しかし、癌を根こそぎ治すというのは現在の医療技術では不可能です。
根治とは癌のある臓器を丸ごと取り除くことを言います。
それによって治るか治らないかは関係ありません。
一方、「温存」とはそのままそっとしておくという意味ですから、「何もせずに様子を見ましょう」ということだと普通は思います。
癌治療における「温存」とは癌の病巣のみを取り除き、臓器の健康な部分は残すことを言います。
ひと昔前の癌治療は手術偏重主義でした。
癌の周辺をできる限り大きく切り取ってしまえば癌を治せるという当時の間違った解釈が、これらの言葉を生み出してそのまま残っています。
これらの言葉は患者の誤解を招くものですので、ぜひ見直してほしいものです。
2010年12月27日に癌を告知された後、2011年4月1日に入院するまで、2回病院に行きました。
1回は入院前検査のため、もう1回は麻酔と入院前のオリエンテーションのためです。
私が受けた入院前検査の項目は以下です。
@ 採血
A 胸部レントゲン
B 心電図
C 肺機能
A〜Cは全身麻酔をかけても大丈夫かどうかをみるための検査です。
この辺りのことは「手術を受ける前に読む本」(講談社ブルーバックス)を読むと参考になります。
2005年発行ですが、2011年現在の治療内容に対して遜色ありません。(左欄参照)
麻酔のオリエンテーションでは、麻酔に関する簡単な説明のビデオを見た後、麻酔科医の診察がありました。
私が38年前と20年前に全身麻酔の手術を受けたときは、手術前日に病室で担当麻酔科医と顔合わせをしただけでした。
麻酔の重要性(危険性?)の認識が昔から随分見直されたんだなぁと一人感慨に浸っていました。
麻酔ができないと手術が開始できませんし、手術中に麻酔の管理を誤ると重篤な状態に陥ることもあります。
にもかかわらず、麻酔科というのはあまり一般に馴染みがありませんでした。
左欄の「麻酔科医ハナ」(双葉社 松本克平:著 なかお白亜:画)を読むと、麻酔科の置かれた境遇を知ることができます。
入院前のオリエンテーションというのも20年前はありませんでした。
当時は入院時にナースステーションで既往症やアレルギーの有無、服用している薬を聞かれる程度でした。
現在、病院側は合併症を予防するために躍起になっています。
合併症が増えると入院期間が延びますし、そうなると患者のローテーションも悪くなり病院の収益にも響きます。
しかし、これは患者にとってもありがたいことです。
不要な合併症を引き起こして苦しむのは結局患者なのですから。
ですので、オリエンテーションのときには関係無いと思われることまで、何でもかんでも話してください。
提供した情報が重要かそうでないかは、プロである病院側に判断してもらえばいいのです。
漢方薬やサプリメントは薬と認識していない人が多いそうですが、これらの常用が原因で重篤な状況に陥った例もあります。
素人考えで関係ないだろうと思って話さなかったことが、プロの判断を誤らせたという事例は枚挙に暇ありません。
2011年3月11日、慶應義塾大学病院で入院前のオリエンテーションを受けている最中に地震に遭遇しました。 病院のある新宿区から都内の田舎にある自宅まではその日のうちには帰れず、京王プラザホテルのロビーで夜を明かしました。 無料で開放いただいたホテルの方々には本当に感謝しています。 また、震災で被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げるとともに、復興を心からお祈り申し上げます。
2011年6月10日(金)